クロダハゼの特徴
名前に「ヨシノボリ」とはつかないものの、れっきとしたヨシノボリの一種です。
本種はかつて止水系トウヨシノボリとされた集団のうち、関東平野に分布するものを指しています。
かつて「トウヨシノボリ偽橙色型」と呼ばれていたものが、本種に該当する形となっています。
尾柄部にオレンジ色の斑を持つ個体が見られることからそう呼ばれましたが、この斑模様は全ての個体が持つわけではありません。
本種は関東地方にのみに分布しますが、「オウミヨシノボリ」などの近縁種の移入により交雑が発生している可能性があると考えられ、もしかすると大半はすでに交雑してしまった集団かもしれません。
一般に頬に斑点は入らないとされますが、交雑の影響を受けているのか、斑点が入る個体が確認できることも少なくありません。
本種は比較的流れが緩い淵や、溜め池などの止水域を好む傾向があります。
基本情報
学名 | Rhinogobius kurodai |
旧名 | トウヨシノボリ偽橙色型(Rhinogobius sp.“OR”) |
記載 | Tanaka,1908 |
サイズ | ふつう全長3~5cm程度。 |
食性 | 雑食性。やや肉食傾向で、水生昆虫が主食と思われます。 |
生息環境 | 関東地方の河川中~下流部および溜め池を中心に生息します。 止水かまたは、流れが緩い環境を好む傾向があります。 |
生活史 | 陸封型。 一生を河川または溜め池で過ごします。 |
卵形 | 小卵型 |
項目 | 評価 | 備考 |
---|---|---|
見つけやすさ | 5 | 東日本なら簡単に見つかります。 |
捕まえやすさ | 5 | 簡単に捕まえられます。 |
飼育しやすさ | 5 | 標準的な設備で簡単に飼育でき、丈夫です。 |
餌付きやすさ | 5 | 人工餌にも容易に餌付きます。 |
気性の荒さ | 4 | やや気が荒く、混泳の際は要注意です。 |
どうしてヨシノボリと名につかないの?
本種はかつて「トウヨシノボリ」のいくつかある型のうちの一つ、「偽橙色型」と呼ばれていました。
しかし、研究が進み分類を整理する際に複雑な経緯があり、「トウヨシノボリ」以前に付けられていた「クロダハゼ」という名称を与えられたようです。
現在のクロダハゼによく似た特徴を持つハゼが「クロダハゼ」という名称で1913に記録されていたようです。しかし、この名称は定着しなかったものと思われます。
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日本全国各地に広く分布する、尾鰭の付け根に橙色の斑を持つヨシノボリは当初「ヨシノボリ橙色型」と呼ばれていました。
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のちにこれが「トウヨシノボリ」と呼ばれるようになり、この名称が広く定着しました。
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「トウヨシノボリ」には「橙色型」「偽橙色型」「宍道湖型」「縞鰭型」など、いくつかの型に分けられる可能性が示唆されました。
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月日は流れ、当時「トウヨシノボリ縞鰭型」と呼ばれていたシマヒレヨシノボリが定義された際に、比較用として「トウヨシノボリ偽橙色型」の標本が用いられました。
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この時、「rhinogobius kurodai」のタイプ標本を精査した結果、トウヨシノボリ偽橙色型の標本 によく一致することが判明しました。
このことから、「偽橙色型」となる「rhinogobius kurodai」が、「トウヨシノボリ」として定義されました。
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しかしこの時点で「トウヨシノボリ」から細分化された種として「オウミヨシノボリ」「カズサヨシノボリ」「シマヒレヨシノボリ」と多数存在することから、何を指すのか不明確であり妥当でない と指摘が入りました。
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1913年に提唱されていた「クロダハゼ」という名称を再適用するのが妥当 と提案があり、これが採択され、以後「クロダハゼ」に改称となりました。
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このとき従来「トウヨシノボリ」とされた魚のうち、「宍道湖型」や西日本、北日本に分布するものはさらに検討が必要とし、言及されませんでした。
したがって、元々トウヨシノボリと呼ばれた魚のうち、「クロダハゼ」「オウミヨシノボリ」「カズサヨシノボリ」「シマヒレヨシノボリ」のうちのいずれでもないもの は現時点では和名を失っており、「ヨシノボリ属の一種(rhinogobius sp.)」としか言いようがないのが実情です。
当サイトではこれら和名を失った個体群を、正確な名称ではないかもしれませんが便宜的に「トウヨシノボリ」として扱っています。
※誤りがありましたら、ご指摘いただけますととても助かります。
つまるところ、トウヨシノボリからクロダハゼという名前に変わった というよりは、クロダハゼというもともとの名前に戻った というのが正解かもしれません。
名前こそ”〇〇ヨシノボリ”の形ではありませんがトウヨシノボリ系の近縁種であり、ヨシノボリの一種と考えて差し支えありません。
クロダハゼの見分け方
クロダハゼと判断する場合に見るべきポイントは次の通りです。
※本種の頬は無地とされますが、模様が入る個体が少なくない数見られます。交雑個体かもしれません。
クロダハゼの外見的な特徴には不定の要素が多く、見た目での判断は難しい部類に入ると思います。
しかし、関東地方の固有種であること、本種が生息するエリアでは下アゴが突出するタイプのヨシノボリは他に在来分布しないことから、
関東地方で採集された、下アゴが突き出ているヨシノボリ は、
概ね本種の可能性が高い と考えて良いでしょう。
オスの背鰭が尖ったり、長く伸長しないのも特徴です。
ただし、交雑が疑われる個体群も数多く存在するようです。
このページで紹介している個体も、もしかすると交雑の可能性があります。
頬に斑点が見られたり、背鰭が伸長する個体も存在するようで、そのような個体は交雑の影響を受けている可能性があります。
クロダハゼのオスとメス
クロダハゼの分布
- 関東地方であること
- 流れが緩やかな河川、または溜め池であること
以上2点の条件を満たしている環境の場合、採集できるヨシノボリは高確率で本種です。
特にアユや渓流魚など水産有用魚種の放流が行われていない河川や溜め池であれば、交雑個体の可能性は低く、ほぼ本種でしょう。
放流が行われている河川やその接続水系の場合は、トウヨシノボリやオウミヨシノボリ、カワヨシノボリなどの線も疑います。
ギャラリー
※頬に斑点が見られる個体は、交雑個体かもしれません。
ただし、本当に交雑個体かどうかは、遺伝子を見ないと断定はできません。
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