トウヨシノボリの特徴
トウヨシノボリは、全国各地に分布するヨシノボリです。
尾の付け根に見られる橙色の斑が最大の特徴と言われますが、個体差が大きく、必ずあるわけではありません。
東日本では最も身近なヨシノボリでありながら、分類に関してはある意味最難関と言っても過言ではありません。
端的に言えば、「他の種類のヨシノボリの特徴と照合して、どの種類とも一致しなければ本種」となると思います。
消去法で考えた方が判断しやすいと思います。
あまりにも複雑難解すぎる分類
トウヨシノボリの分類には紆余曲折あり、当初「トウヨシノボリ」として分類された種類は
- オウミヨシノボリ(トウヨシノボリ橙色型 のうち琵琶湖水系のもの)
- カズサヨシノボリ(トウヨシノボリ橙色型 のうち千葉県房総丘陵地帯のもの)
- クロダハゼ(トウヨシノボリ偽橙色型 関東平野のもの)
- シマヒレヨシノボリ(トウヨシノボリ縞鰭型)
・・・と多岐にわたります。
「トウヨシノボリ」の分類が再編された際に各種が整理された結果、
「上記のうちのいずれでもない、かつてトウヨシノボリとされたもの」
・・・が、ひとまず本種という形になります。
さらに言えば、これらの「いずれでもないもの」は名無しの状態にあるとも言え、実際のところは「クロダハゼ類の一種」としておくのが、もしかすると正解なのかもしれません。
しかし、「名無し」や「〇〇の一種」では、ヨシノボリとしての紹介に支障が出てしまいます。
このためひとまず本サイトでは、かつてトウヨシノボリとされたもののうち、
オウミヨシノボリ、カズサヨシノボリ、クロダハゼ、シマヒレヨシノボリのいずれでもないもの を、「トウヨシノボリ」と定義します。
全体的な共通点としては、♂の尾柄部に橙色の斑点を持つことから、その名が付きました。
ただし模様は個体差が激しく、模様が入らない個体も一定数存在します。
ただし、生息域によって特徴に大まかな傾向はあるようです。
おそらく未分類の「トウヨシノボリ」の中には、まだ複数の種類が存在する可能性が考えられます。
加えて、種苗放流に混じって全国的に近縁種であるオウミヨシノボリが拡散してしまっています。
ただでさえ複雑な遺伝的背景があるところ、交雑も発生していると考えられ、事態は大変混迷を極めているようです。
本種は生息域によって、回遊型と陸封型 どちらも存在します。
基本情報
学名 | Rhinogobius sp.“OR” ※学名未決定 |
旧名 | ヨシノボリ橙色型(Rhinogobius sp.“OR”) |
サイズ | ふつう全長3~7cm程度。 生息環境により標準サイズは大きく異なります。 河川であれば大型化、溜め池や湖など止水環境では小型化する傾向があります。 |
食性 | 雑食性。やや肉食傾向で、水生昆虫が主食と思われます。 |
生息環境 | ヨシノボリとしてはかなり多様な環境に生息します。 河川、溜め池、湖など、ほとんどの水域に分布可能と考えられます。 本種には未整理となる複数種が内在する可能性があると言われています。 それぞれがもしかすると、別種という可能性もあり得ます。 |
生活史 | 両側回遊型、陸封型 どちらもいます。 |
卵形 | 小卵型 |
項目 | 評価 | 備考 |
---|---|---|
見つけやすさ | 5 | 東日本なら簡単に見つかります。 |
捕まえやすさ | 5 | 簡単に捕まえられます。 |
飼育しやすさ | 5 | 標準的な設備で簡単に飼育でき、丈夫です。 |
餌付きやすさ | 5 | 人工餌にも容易に餌付きます。 |
気性の荒さ | 4 | やや気が荒く、混泳の際は要注意です。 |
トウヨシノボリの見分け方
トウヨシノボリは、外見のみからそれと断定するのはあまりに変異が多いため困難です。
尾柄部の橙色が”トウ”ヨシノボリの名前の由来ですが、尾柄部に橙色の斑が入らない個体は少なくありません。また、カワヨシノボリでも橙色の斑が入る個体がいます。
他のヨシノボリの特徴としてどの種類とも一致せず、胸鰭分枝軟条数が18以上であれば、本種と考えて良いでしょう。
チェック1
チェック2
トウヨシノボリは模様の個体差が激しいため、他のヨシノボリで用いられるような各部の模様での判定はあまりあてになりません。
尾鰭の付け根の橙色斑が特徴とされますが、この斑を持たない個体も少なくない数見られます。
特に、カワヨシノボリ とは、色彩が不定な点でも極めて類似します。
カワヨシノボリにも尾の付け根に橙色斑が見られる個体がおり、外観の特徴から判断は難しいです。
どの種類にも落とし込めない場合、大抵は本種かカワヨシノボリの2択となることが多いです。
ただし、以下の地域で採れたものであれば、カワヨシノボリの可能性はほぼありません。
高確率で本種と判断して良いでしょう。
北海道、青森、秋田、岩手、宮城、福島、新潟、群馬、栃木、茨城、千葉
上記以外の地域で採れたものであれば、他の種類に落とし込めないヨシノボリは、本種かカワヨシノボリかの2択となることが多いです。
また、沖縄県にはどちらも分布しません。
判別点として、カワヨシノボリは胸鰭の分枝軟条数が17本以下となり、この特徴を持つヨシノボリはカワヨシノボリだけです。
このため、胸鰭で区別するのが最も確実性が高い判別法となります。
胸鰭の分枝軟条数を数えよう
分枝軟条とは、胸鰭にある”先端に枝分かれが見られるスジ”の部分を指します。
このうち、枝分かれしていない根元の部分を1本としてカウントします。
トウヨシノボリ
カワヨシノボリ
本種の判定の際は、このように胸鰭の分枝軟条数を見るのが最も確実です。
これが18本以上であれば、ほぼ間違いなくトウヨシノボリである と断定できるでしょう。
慣れてくると、胸鰭鰭条の”間隔の広さ”でなんとなく区別できるようになります。
トウヨシノボリの方が間隔が狭く、詰まった感じがします。
※ただし、まれに「トウヨシノボリ」で17本の個体も存在するようです。
トウヨシノボリのオスとメス
トウヨシノボリの外見的特徴は個体差が大きいです。
背鰭を見ることで雌雄は見分けられますが、それ以外の個所ではこれと言って特徴を見出すことは困難です。
♂の背鰭・尾鰭は無地であることが多く、♀の背鰭・尾鰭には何らかの模様が入ることが多いですが、これも確実ではありません。
トウヨシノボリの分布
上流から下流まで、さらには溜め池など湖沼にも、あらゆる環境に分布します。
複数種が内在する可能性
本種の分類は難解を極めますが、ざっくり分けて
- 北日本~日本海側沿岸系
- 東北地方内陸系
- 九州系
と、大きく3つに分けられる感じがします。
北日本~日本海沿岸 のものは、まさに外観はカズサヨシノボリによく似ています。
産地の情報が無ければ区別できないレベルかもしれません。
オウミヨシノボリと交雑が生じた集団である可能性もあり得ます。
東北地方内陸部 のものは、外観はクロダハゼによく似ています。
しかし、クロダハゼのような特徴があまりはっきりとは現れず、全体的に「薄味」な印象です。
北日本の日本海側沿岸のもの、九州のものとは、外観上はもはや別種のように見えます。
九州地方 のものは、大型化する傾向があるように感じられます。
佐賀県でオオヨシノボリと同じ河川に生息している個体を筆者は見たことがありますが、オオヨシノボリに迫るほど大型の個体であったことが印象的です。
北日本の集団とは同一かもしれませんし、違うかもしれません。
またこちらも、オウミヨシノボリとの交雑が生じた集団である可能性も、あり得ます。
ギャラリー
北日本~日本海側沿岸のもの
外観はカズサヨシノボリと瓜二つです。
産地情報が無ければ見分けがつかないレベルかもしれません。
個体によって頬に赤い斑点が見られるものがいます。
これは在来集団の特徴なのか、オウミヨシノボリとの交雑によるものなのかは不明です。
東北地方内陸部のもの
雰囲気はクロダハゼやシマヒレヨシノボリやトウカイヨシノボリに近い印象を受けます。
最大でも全長4~5cmと小さく、長期飼育していてもなかなか大型化しません。
日本海側沿岸の個体とは、同種と思えないほど見た目に乖離があるとは思います。
九州地方のもの
カズサヨシノボリとオオヨシノボリを足して2で割ったような、大型化する印象のある個体群です。
日本海側沿岸の個体に比べやや発色が弱く、その代わり一回り大型化する印象があります。
河川で見られる個体は本州で見るよりも一回り大きいものが多く、川で見たときの印象はまるでオオヨシノボリです。
かつて黒色大型Bと呼ばれた集団が、これなのかもしれません。
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