ヨシノボリを特徴から絞り込んでいく検索表です。
河川水辺の国勢調査 魚類スクリーニング委員会編「水国用日本産ヨシノボリ属魚類の検索表(暫定第 1 版)」をベースに、当サイトでは採集現場でも使いやすいように補足情報を交えながらまとめてみました。
この検索表では主に本州で見つかる種類を対象としており、沖縄方面と小笠原諸島に固有の種類は除いています。
オリジナルの検索表にも記載がある通り、特徴的な色彩は♂に出ることが多いです。
したがって、♀のみでの判断は困難な場合があります。
また、可能な限り♂は複数個体用意の上、比較できると望ましいです。
なお、当サイトでは「採集した現場において、生きた状態で確認が可能な形質」を優先し、太文字での表示としています。
当サイトでは採集または飼育の際に利用されることを前提に想定しています。
このため標本にしたり、解剖したり、顕微鏡を用いないと確認できない形質に関しては、このページでは重要度を下げています。ご了承ください。
確認1 ゴクラクハゼかどうか
ゴクラクハゼか、それ以外のヨシノボリ属かを判定します。
顔のV字バンドと背鰭前方鱗を確認してください。
オリジナルの検索表では孔器列と前方鱗を確認していますが、孔器列は生きた状態で目視確認することは困難です。したがって背鰭の前方鱗を確認します。
眼下の孔器列は横列型,背鰭前方鱗は櫛鱗からなる→ゴクラクハゼ
水国用日本産ヨシノボリ属魚類の検索表(暫定第 1 版)
眼下の孔器列は縦列型,背鰭前方鱗は円鱗からなる→確認2へ
眼下の孔器列は横列型,背鰭前方鱗は櫛鱗からなる
ゴクラクハゼ Rhinogobius similis
眼下の孔器列は縦列型,背鰭前方鱗は円鱗からなる 場合
少なくともゴクラクハゼではない ということは判定できました。
確認2 カワヨシノボリかどうか
確認1により、少なくともゴクラクハゼでないことは分かりました。
次に、カワヨシノボリと他種かどうかを判定します。
胸鰭分枝軟条数(胸鰭の筋の本数)を確認してください。
胸鰭を見てください。
胸鰭鰭条数 14~17(希に 18)、脊椎骨数 27-28、卵径約 6 x 2mm の大卵
を生む → カワヨシノボリ胸鰭鰭条数 19 以上(希に 18)、脊椎骨数 26、卵径は大きくても約 2.8 x
水国用日本産ヨシノボリ属魚類の検索表(暫定第 1 版)
0.9mm の小卵を生む →確認3へ
オリジナルでは脊椎骨数と卵径も確認していますが、この2項目は採集したその場で確認することはできません。
確認する場合、持ち帰って研究室での繁殖や解剖が必要となり、家庭での飼育を目的とした場合の判断には不向きです。したがって胸鰭条数を確認します。
胸鰭分枝軟条数 17本以下の場合
→カワヨシノボリ Rhinogobius flumineus
※ごくまれに胸鰭条数が18本の個体がいます。
※本種は西日本で採れることが多いです。東北地方以北には分布しません。
東北地方以北の場合、トウヨシノボリかもしれません?
胸鰭分枝軟条数 18本以上の場合
少なくともカワヨシノボリではない ということは判定できました。
確認3 シマヨシノボリかどうか
確認2により、カワヨシノボリではないことはわかりました。
次に、シマヨシノボリかどうかを判定します。
頬の迷路状および波状線 があるかを確認してください。
頬に赤色の迷路状模様または波状線が多数ある → シマヨシノボリ
いずれもない →確認4へ
水国用日本産ヨシノボリ属魚類の検索表(暫定第 1 版)
頬に赤色の迷路状模様がある
→シマヨシノボリ Rhinogobius nagoyae
※本種は海に流れ込む河川で採れることが多いです。
いずれもない
少なくともシマヨシノボリではない ということは判定できました。
確認4 ルリヨシノボリかどうか
確認3により、シマヨシノボリでないことはわかりました。
次に、ルリヨシノボリかどうかを判定します。
頬に青色小斑点 があるかを確認してください。
生時または生鮮時、頬に輝青色点が散在する(雄で顕著) → ルリヨシノボリ
輝青色点がない →確認5へ
水国用日本産ヨシノボリ属魚類の検索表(暫定第 1 版)
頬に輝青色点が散在する場合
→ルリヨシノボリ Rhinogobius mizunoi
※本種は渓流のような、河川上流域で採れることが多いです。
輝青色点がない
少なくともルリヨシノボリではない ということは判定できました。
確認5 オオヨシノボリかどうか
確認4により、ルリヨシノボリでないことはわかりました。
オオヨシノボリかどうかを判定します。
胸鰭の「’」状斑点と尾の付け根の斑点 を確認してください。胸鰭と尾の付け根に着目します。
胸鰭基底上部に明瞭な円形の黒色斑がある、尾鰭基底に明瞭で太い黒色
横斑がある → オオヨシノボリいずれもない →確認6へ
水国用日本産ヨシノボリ属魚類の検索表(暫定第 1 版)
胸鰭基底上部に明瞭な円形の黒色斑があり、かつ尾鰭基底に明瞭で太い黒色
横斑がある
→オオヨシノボリ Rhinogobius fluviatilis
※胸鰭と尾の付け根、どちらも満たしている必要があります。
どちらか片方しか満たしていない場合は、確認6へ。
いずれもない場合
少なくともオオヨシノボリではない ということは判定できました。
確認6 クロヨシノボリかどうか
確認5により、オオヨシノボリでないことはわかりました。
クロヨシノボリかどうかを判定します。
体側正中線(体側の中央部)を確認してください。
体側の中央部を見てください。
※♂では目立たない場合があります。
体側正中線上に黒色破線が並ぶ、体背側に黒色点が密在する(雌で顕著) → クロヨシノボリ
いずれもない →確認7へ
水国用日本産ヨシノボリ属魚類の検索表(暫定第 1 版)
正中線が確認できる、または胸鰭に三日月状の黒斑、尾鰭に特徴的な点列が見られる
→クロヨシノボリ Rhinogobius brunneus
※本種は上流の浅い小河川で採れることが多いです。
いずれもない
少なくともクロヨシノボリではない ということは判定できました。
確認7 トウヨシノボリ類かもしれない
ここまでの確認で判定できないとなると、トウヨシノボリ類の可能性がとても高いです。
トウヨシノボリ系のヨシノボリは、同定が非常に難しいとされています。
一方で、特に東日本では珍しいヨシノボリではありません。
ふつうに見られることが多いのも、このトウヨシノボリ類となります。
確認6により、クロヨシノボリでないことはわかりました。
♂個体の尾の付け根のオレンジ色の斑紋の有無を確認してください。
雄の尾鰭基底に橙色斑がない →確認8へ
大きな橙色班がある →確認11へ
水国用日本産ヨシノボリ属魚類の検索表(暫定第 1 版)
雄の尾鰭基底に橙色斑がない 場合
トウヨシノボリ、シマヒレヨシノボリ、ビワヨシノボリ、トウカイヨシノボリのいずれかであるところまで絞り込めました。
大きな橙色斑がある 場合
トウヨシノボリ、オウミヨシノボリ、カズサヨシノボリ、クロダハゼのいずれかであるところまで絞り込めました。
確認8 トウヨシノボリかどうか
橙色の斑紋が確認できない場合、トウヨシノボリかどうかを判定します。
第一背鰭の形状を確認してください。
♂の第一背鰭を見てください。
♀の場合判定ができません。
雄の第 1 背鰭は高い烏帽子状になる → ヨシノボリ属の一種
雄の第 1 背鰭は低く半円形、台形、将棋駒形で高くならない 場合 → 確認9へ
水国用日本産ヨシノボリ属魚類の検索表(暫定第 1 版)
雄の第 1 背鰭は高い烏帽子状になる場合
→ヨシノボリ属の 1 種 Rhinogobius sp.(不明種)
※どの種類にも当てはまりませんでした。
この場合、おそらく「トウヨシノボリ」の可能性が高いものと思われます。
雄の第 1 背鰭は低く半円形、台形、将棋駒形で高くならない場合
この段階ではまだトウヨシノボリ、シマヒレヨシノボリ、ビワヨシノボリの3択です。
確認9 ビワヨシノボリかどうか
ビワヨシノボリかどうかを判定します。
第一背鰭の鱗と腹部の鱗を確認してください。
しかし、一部の特殊なケースを除き、基本的に鱗を見なくとも採集場所で判定ができます。
琵琶湖および接続水系であればビワヨシノボリ、そうでなければビワヨシノボリではないことがほとんどです。
第 1 背鰭前方、腹部は無鱗(第 1 背鰭前方に数個の鱗を被ることもある) → ビワヨシノボリ
第 1 背鰭前方、腹部は円鱗を被る → 確認10へ
水国用日本産ヨシノボリ属魚類の検索表(暫定第 1 版)
第 1 背鰭前方、腹部は無鱗の場合
→ビワヨシノボリ Rhinogobius biwaensis
第 1 背鰭前方、腹部は円鱗を被る 場合
確認10 シマヒレヨシノボリかトウカイヨシノボリ
シマヒレヨシノボリかトウカイヨシノボリのどちらかの可能性が高いです。
第一背鰭の模様を確認してください。
また、採集場所でも大まかに判定ができます。
岐阜県、愛知県、三重県であればトウカイヨシノボリ、それ以外の地域であればシマヒレヨシノボリの可能性が高いです。
ただし、岐阜県、愛知県、三重県にもシマヒレヨシノボリが移入しているという報告もあるため、産地のみでの判断は誤判断を誘発する可能性があります。
加えて、交雑個体の報告もあるようです。
交雑個体の判定はここでは考慮していません。
頭部に前鰓蓋管がある、第 1 背鰭に黒色横斑がない → シマヒレヨシノボリ
頭部に前鰓蓋管がない、第 1 背鰭に黒色横斑が並ぶ → トウカイヨシノボリ
水国用日本産ヨシノボリ属魚類の検索表(暫定第 1 版)
前鰓蓋管は生きた状態で目視確認することは困難なため、ここでは見ません。
確認が必要な場合は研究室に持ち帰って解剖が前提となるため、家庭での飼育を目的とした場合の判断には不向きです。
第 1背鰭に黒色横斑がない 場合
→シマヒレヨシノボリ Rhinogobius tyoni
※本種は近畿~瀬戸内海沿岸地域を中心に分布します。
一部地域に移入例が知られますが、東日本では基本的に見られません。
シマヒレヨシノボリに関しては、第2背鰭に横斑がすべての個体で見られます。
第2背鰭も参照してみてください。
第 1 背鰭に黒色横斑が並ぶ 場合
→トウカイヨシノボリ Rhinogobius telma
※本種は基本的に岐阜・愛知・三重県固有種です。
それ以外の地域では基本的に見られません。
なお、岐阜、愛知、三重の3県いずれでも、シマヒレヨシノボリとの交雑個体が確認されているようです。
どうしても判断に悩む場合は、交雑個体なのかもしれません。
確認11 オウミかカズサかトウかクロダ
トウヨシノボリ、オウミヨシノボリ、カズサヨシノボリ、クロダハゼのいずれかの可能性が高いです。
第一背鰭の形状を確認してください。
♂の第1背鰭の形状を見てください。
♀の場合判定ができません。
雄の第 1 背鰭は半円形、台形、将棋駒形、あるいは後端上部がやや伸長
する台形である 場合
雄の第 1 背鰭は高い烏帽子状になる 場合
確認12 おそらくトウヨシノボリ
トウヨシノボリの可能性が高いです。
採集した産地を確認してください。
中部地方以西に分布する → トウヨシノボリ類
関東地方以北に分布する → 確認13へ
水国用日本産ヨシノボリ属魚類の検索表(暫定第 1 版)
中部地方以西に分布する 場合
→トウヨシノボリ類 Rhinogobius sp. OR unidentified
関東地方以北に分布する
トウヨシノボリかクロダハゼまで絞り込めました。
確認13 関東産ならクロダ、それ以外ならトウ
後眼肩甲管を確認してください。
頭部に通常、後眼肩甲管(開孔 K′,L′)がない → クロダハゼ
後眼肩甲管がある → トウヨシノボリ類
水国用日本産ヨシノボリ属魚類の検索表(暫定第 1 版)
とはいうものの、「後眼肩甲管」は生きた状態のまま目視で確認することは困難です。
このため、「クロダハゼ」か「トウヨシノボリ」のどちらかに落とし込めた という判断になります。
「後眼肩甲管」を生きた状態で目視確認することは困難なため、家庭での飼育を目的とする場合は採集した地域で判断するのが現実的な落としどころかなと思います。
関東平野の止水産の場合
本来であれば、「頭部に通常、後眼肩甲管がないこと」を確認しての判断となります。
しかしこの部位は生きた状態での判断は困難で、飼育目的の場合現実的ではありません。
関東地方の平野部や止水域産ならほぼこちらだと思います。
→クロダハゼ Rhinogobius kurodai
関東以外の産地の場合
本来であれば、「後眼肩甲管がある」ことを確認しての判断となります。
しかし飼育目的の場合現実的ではありません。
東北地方産ならおそらくこちらでしょう。
関東地方産であっても、こちらである可能性はあります。
→トウヨシノボリ類 Rhinogobius sp. OR unidentified
確認14 オウミかカズサかトウ
トウヨシノボリ、オウミヨシノボリ、カズサヨシノボリのいずれかの可能性が高いです。
尾鰭の模様を確認してください。
尾鰭を確認してください。
♀の場合、当てはまらないことがありますので、♂で確認してください。
尾鰭に横線や横点列がある → トウヨシノボリ類
ない → 確認15へ
水国用日本産ヨシノボリ属魚類の検索表(暫定第 1 版)
尾鰭に横線や横点列がある場合
→トウヨシノボリ類 Rhinogobius sp. OR unidentified
尾鰭に横線や横点列がない場合
確認15 オウミかカズサかトウ
トウヨシノボリ、オウミヨシノボリ、カズサヨシノボリのいずれかの可能性が高いです。
産地を確認してください。
滋賀県琵琶湖流入河川、千葉県南部山間部、それ以外の地域 からの3択です。
琵琶湖流入河川に生息する → オウミヨシノボリ
房総半島南部の河川に生息する → カズサヨシノボリ
その他の地域に分布する → トウヨシノボリ
水国用日本産ヨシノボリ属魚類の検索表(暫定第 1 版)
琵琶湖流入河川に生息する場合
→オウミヨシノボリ Rhinogobius sp. OM
※基本的に琵琶湖接続水系固有種ですが、全国的に移入が進んでいるようです。
したがって、他地域で見られる可能性もあります。
頬に赤い小斑点が密集して見られるのも特徴の一つです。
房総半島南部の河川に生息する場合
→カズサヨシノボリ Rhinogobius sp. KZ
※本種は千葉県固有種です。
その他の地域に分布する場合
→トウヨシノボリ類 Rhinogobius sp. OR unidentified
トウヨシノボリは特徴が不定です。
どの種類の特徴にも当てはまらなければ、本種という判定になることが多いです。
よくわかった?日本のヨシノボリ
これで本州で見かける日本産ヨシノボリは全種見分けることができます。
採集現場で迷った際に、判断に役立てば幸いです。
なお、どうしても判断が難しい!と感じた場合。
この検索表と照合しても判断が難しい場合は、カワヨシノボリ か トウヨシノボリのどちらかであることが多いかな、と思います。
この2種に関しては、場数を踏んでも判別が難しいです。
胸鰭の条数を数えるのが一番で、一見してもカワヨシノボリの方が胸鰭の条の間隔が広めに見えます。
慣れると顔つきでも何となくわかるようになるので、ぜひ川に繰り出して比較してみてくださいね。
※万が一誤りがあるようでしたら、ご指摘いただけますと助かります。