2024年11月23日。
京都大学の学祭で開催された、全ヨシノボラー(ヨシノボリを愛好する人たちの総称らしい)が注目する狂気の企画「大ヨシノボリ展」に行ってきました。
なんでも、すべてのヨシノボリが揃っているのだとか。
期待しかない。
いざ、「大ヨシノボリ展」へ
午前中は京都水族館に行ってました。
なんだかんだで、お昼頃現地着。
4日間の開催で、今日が最終日となるようです。
大学祭、テーマパークに来たみたいでテンションが上がりますね。(ツイッタランドが具現化するとこうなるのか~という印象を受ける企画も割と部分的に見かけました。)
京大淡水研 大ヨシノボリ展
まず、着いて思ったのは想像以上の混雑ぶり!
まさか入場列ができてるとは!
ただ回転率(?)は悪くないらしく、10分くらいの待機で入場できました。
ただむちゃくちゃ混んでて、あんまり撮影に時間をかけられず・・・写真のクオリティがややアレなのはご了承ください。
広域分布のヨシノボリ
まずは日本国内の広い地域に生息している、広域分布種のヨシノボリから展示されていました。
一番最初に展示されていたのはカワヨシノボリ。
京都大学の最寄りにある、鴨川産の個体だそうです。
まずは最も身近なヨシノボリを展示することで、来場者の興味を引き付ける。いいですね!
京都市内でおそらく最も見つけやすいヨシノボリは、カワヨシノボリでしょう。
シマヒレヨシノボリもいるものと思われますが、京都市内だと生息域がやや限定されそうな印象です。
続いて、本州の広域に分布する両側回遊の生態を持つヨシノボリ。
まとめて4種展示されていました。(展開早くない?)
クロヨシノボリは淡路島産とのこと。
京都府内にも分布していますが、京都でクロヨシノボリを狙うのは正直やや難しい印象があります。
それから、ゴクラクハゼ。
こいつも一応ヨシノボリの仲間ですね。(顔は向けてくれませんでした)
これでひとまず、広域分布のよく見かける種、に関しては一通り解説が済んだことになります。
地域限定のヨシノボリ
お次は、ある程度分布域が限られるヨシノボリたちが展示されていました。
それから、シマヨシノボリ。
ここから沖縄のターン!
シマヨシノボリは先ほども展示されていましたが、本州のものと沖縄のものとでは頭部の斑紋の入り方に違いが見られることが知られています。(残念ながらずっと隠れていて撮影できませんでした)
両者の違い、ぜひ比較してみましょう。
また琉球列島のシマヨシノボリ、実は今年の1月に採集していたりしますので、詳しくはそちらも。
ちょうど5月に本州(宮城県)でシマヨシノボリも採集していたので、比較すると面白いかも。
それから、クロヨシノボリ。
来年石垣行こうかな?
3番目は間違いなくアヤ♂。2番目の♀も、たぶんアヤな気がしています。
続いて、アヤヨシノボリ。
さっきクロヨシノボリに混ぜて展示していましたが、こちら単独での展示も。
意外と出会いやすい。
分かりやすい美しさがあり、しかも沖縄に行けば割と出会えるヨシノボリ。
沖縄本島では生息範囲も広く、個体数も少なくないようなので、はじめての離島遠征のターゲットとしては最適かもしれません?
少なくないとはいえ、グッピーのようにどこにでもいるわけでもないという点も、出会うまでに簡単すぎない程よい難易度があってたのしいかもしれません。
採集難関のヨシノボリ
ここから先のヨシノボリは、採集難関種。
出会うためには“ちょっとした覚悟が必要”なヨシノボリたちです。
続いて展示されていたのは、ヒラヨシノボリ種群。
ケンムンヒラヨシノボリとヤイマヒラヨシノボリ。
・・・が、残念ながら標本のみ。
なんでも、採集には成功し、本来であれば生体展示する予定だったようです。
しかしながら、展示前に落ちてしまったのだとか。残念。
離島から生き物を持ち帰っても、輸送状態によっては立て直しが難しいこともよくあります。
離島遠征の難しいところですね。。
でもケンムンは屋久島以南沖縄以北、ヤイマは八重山諸島の固有種。
行ってきて、採ってきただけで十分すごいと思います。
ケンムンヒラヨシノボリに関しては、私も採集経験があります。
結構な急流域に生息しているので、採集そのものの難易度としては本種がトップかもしれません?
そして、次にすんごいやつが。
オガサワラヨシノボリ。
まさか、生体展示されているとは。
今回の展示の中でたぶん一番すごいやつ。
オガサワラヨシノボリは、法令による規制のない種の中では、おそらく採集最難関のヨシノボリです。
たぶん採集そのものはそれほど過酷ではないかもしれませんが、
- 旅程が最短でも5泊6日(船の往復で丸2日かかるため、島内で採集できるのは実質3日)
- 遠征費用10万円前後+レンタカー(費用+運転免許)
- 現地の天候に恵まれる必要がある
- 6日間の長期日程で活かしたまま持ち帰る必要がある
- 保護区が多いため採集時に細心の注意が必要
と、本種に出会うためには乗り越えなければならない壁が非常に多いのです。
どれか一つでも欠けると、手に入れることはできません。
それを採ってきたのだから、、やべぇ。。やべぇぜ・・・。
採集規制種のヨシノボリ
続いて展示されていたのは、採集に規制のあるヨシノボリ。
沖縄県、および鹿児島県の条例で採捕が規制されており、許可が必要な種です。
まずはアオバラヨシノボリ。
沖縄本島の固有種で、2019年までは実はほぼ毎年会いに行ってました。
透明感のある体色と、婚姻色の青い発色が美しいやんばるの希少種です。(という割には現地個体数は多い印象。。)
2020年、コロナ禍のタイミングで遠征は控えていたのですが、この間に採集が規制されてしまい、以後新規での採集は事実上できなくなってしまいました。
このアオバラヨシノボリは、先に展示されていたアヤヨシノボリの共通祖先から分化した種、と考えられています。
河川上流部で陸封されたものがアオバラヨシノボリに、中~下流部で両側回遊型の生活史をとるものがアヤヨシノボリと分化されたのでしょう。
また、アオバラヨシノボリは島の東西で遺伝子型が微妙に異なるともいわれています。
もしかすると、島の東西で別種、ということもあり得るのかもしれません。
つづいて、キバラヨシノボリ種群。
沖縄県、鹿児島県の離島に分布する固有種ですが、どちらも採捕には許可が必要です。
あと生態の特性上、基本的に滝の上流に生息しており、下流には居ません。
これらのキバラヨシノボリ種群は、クロヨシノボリの共通祖先から分化したと考えられています。
河川中流~下流を中心に、結構ふつうに見られます。
クロヨシノボリは、本州では数多く見られるエリアはやや限られています。
しかし、沖縄やその周辺離島では、珍しくないヨシノボリです。
シマヨシノボリと同等か、それ以上に見つけやすいヨシノボリでしょう。
キバラヨシノボリはクロヨシノボリとの共通祖先が滝の上流に適応して進化したものであり、しかもそれぞれの島で平行進化したのではないか、と考えられています。
その性質上、基本的には滝の上など閉鎖的な水域に生息地が局限されます。
クロヨシノボリに比べかなり特殊な環境に生息しているため、アクセスが困難な場所であることが多く、会いに行くことも困難な種です。
石垣島と西表島の個体群に関しては、それぞれ名前が与えられました。
奄美大島、徳之島、沖永良部島、沖縄本島、久米島などの個体についても、もしかすると将来的に名前が与えられたりするのかもしれません?
採集に規制があるため、いずれにせよ手に入れることは事実上ほぼ不可能。
このあたりは今後の研究に期待、ですね。
ここから本番 カワヨシノボリ編
こ こ ま で 前 菜 ! ?
こ こ か ら が 本 番 だ
私、この集団は知らないんですが・・・
実はここまでで全展示の1/3くらい。
あと2/3何があるって、カワヨシノボリとトウヨシノボリをやるらしいです。
この2種は全国的に広く分布するいわば普通種ですが、とにもかくにも表現型が多く、沼 of 沼 なヨシノボリです。
というわけで、まずはカワヨシノボリ編行ってみましょう!
まずは、タイプ産地となる愛媛県産の個体から。
ピンポイントでタイプ産地の個体を集めてくる気合の入りっぷり。
タイプ産地の個体が当然、基本形ということにはなるのですが、個人的に四国の個体群は背鰭の伸長がやや弱いような印象を受けています。特に愛媛のやつ。
隣に展示されている三重県の個体の方が、全国的にはスタンダードな印象があります。
さらに無斑型を追加ァツ!
まさかの3集団比較。同型を複数産地から集めたの・・・?
さすがに見分けがつきません。
しかも淡路、高知、山口となるとまあまあ離れているので、集めるのもまあまあ大変だったでしょう。
こりゃすんごいボリュームになりそうです。
わざわざ無斑型と書いて展示するということは、当然他の型もあるでしょう。
そんなわけで斑紋型。美しい背鰭。
おそらく私の採集したことのある集団と、同じか近い水系の個体なのかもしれません。
というのも、個人的に島根県の斑紋型は東西で背鰭の伸長が異なる気がしていて、おそらく東の個体群は伸びにくく、西の個体群は伸びやすいのではないか?と推測しています。
続いて、壱岐佐賀型。
丸っこい背鰭と、ほぼすべての♂個体の尾鰭の付け根にトウヨシノボリのような橙色斑が見られる集団です。
壱岐佐賀型もこのブログを開設する前に、佐賀県で採集した経験があります。
サイズは小柄ですが寿命は4年くらいと結構長生きするみたいです。
またいつか特集してみようかな~
これでよくいわれる3型は紹介済みですが、なんと無斑型から細分化される静岡県のあの2型。
富士型と赤石型も展示されていました。
(赤石型は撮り忘れたらしいです・・・)
そして、不明型も。
ここまで紹介した5型のいずれにもあてはまらないやつらがこれ。
それぞれ福井県、長野県、長崎県(五島列島)に該当する集団がおり、それぞれの特徴は微妙に異なります。
ここでは、福井県と長野県の集団が展示されていました。
これで展示の2/3が終了。
残りは、トウヨシノボリのターンです。
まだまだ混沌 トウヨシノボリ編
まずは千葉県のトウヨシノボリ。
そして千葉県固有種、カズサヨシノボリ。
カズサヨシノボリは千葉県全域に分布しているわけではなく、主に南部の山間部に生息しているようです。
遠方から狙う場合、レンタカーでないと行けないようなところに居るので、京都発で本種を狙うとなるともしかすると沖縄に行くより大変かもしれません。
続いて、クロダハゼ。
関東平野で見られるヨシノボリは、ほとんどの場合このクロダハゼと思われます。
ヨシノボリなのに、ヨシノボリと和名に付かずこの名前なのは紆余曲折ありまして。
なおクロダハゼはちょうど、3月に埼玉で狙ったりしてました。
個人的に、秋田県の集団は非常に個性を感じています。
会津地方の内陸部で見られる個体とそっくりな印象を受けました。
東北内陸部、ため池などの止水域に産する小型トウヨシノボリ。
とても奥深い個体群と考えています。
以前、「宍道湖型」と呼ばれていたタイプ?
4月に採集した個体はこの近辺のやつ。
オウミヨシノボリと何らかの関係がある、といわれているようです。
青森県は未踏の地。
来年あたり行ってみたいと考えており、先んじて個体を見れたのは良い経験になりました。
シマヒレの分布エリアですが確かに違う・・・。主に顔つきとか。
それから、大変興味深い分布図が。
琵琶湖自体は毎年行っているのですが、来年のテーマはこれですね。
(タモ網を月夜に煌めかせ)さーてと、交雑個体群、掬っちゃいますか。(琵琶湖水系の茂みに消える)
なおオウミヨシノボリの名前が付く前、個人的には”ビワトウ”と呼んでました。
背鰭が伸長する個体が選好される、この特性は初めて知りました。
展示もいよいよ終盤になってきました。
最後に展示されていたのはシマヒレヨシノボリ。
東日本では見られませんが、西日本では広く分布するいわゆる普通種です。
しかしながら、個人的にシマヒレ狙いの採集遠征は勝率が悪いため、やや狙いづらい魚という印象を持っています。
実は翌日、もともと滋賀県南部でシマヒレヨシノボリを狙いにいくつもりでした。
ちょうど展示があろうとは。(なお時間が少なくて採れなかった模様)
池は流れがなくヨシノボリはふわふわ泳いで生活する。
川は流れがあり、流されないように張り付く。
ヨシノボリの腹鰭は吸盤になっており、川の方が吸盤が強い。
ここまでで一通り展示を見終えて、外に出ました。
食べてみよう、ヨシノボリ
(構内を通過できることを知らなかったので)実はめちゃくちゃ迷いました()
ただそもそも本日が最終日で、お昼時もちょっと過ぎていたことから、全体的に在庫が少なくなっていた様子。
当初お茶漬け、という触れ込みでしたがお米が売り切れてしまったようで、佃煮のみ、となっちゃいました。
たぶん、カワヨシノボリ。
川魚の素朴な味に、醤油と砂糖、あと山椒が効いていて旨い。
鴨川に見られるカワヨシノボリは、古くは京都において高級食材として食べられていたようです。
おそらく、味も当時のそれを再現しているのではないでしょうか?
ひっそり展示!?レイホクナガレホトケドジョウ
大ヨシノボリ展の裏で、今年記載されたばかりの「レイホクナガレホトケドジョウ」が実はひっそりと展示されていました。
以前から、福井県北部に違和感のあるナガレホトケドジョウがいるとかなんとか、一部の間では知られていたらしいです。
もうちょっと早く来ていれば講座が聞けたらしいのですが、今回は見るだけでした。
実は以前、福井県に住んでいた時期があったのですが、当時はこの魚の存在に全く気付きませんでしたね・・・。
すごいぞ!京大淡水研
というわけで、予想をはるかに上回るボリューミーな展示でした。
しかも国産種のほとんどの解説を前半1/3に圧縮し、残り1/3がカワヨシノボリ、残り1/3はトウヨシノボリという偏ったこだわりっぷり。あまりにも好きすぎます。
カワヨシノボリ、トウヨシノボリは私も全国で採集しており、各地域の特徴を網羅的に集めたラインナップで大変見ごたえがありました。
まだいくつか採集経験のない都道府県もあるので、採集意欲もわいてきます。
また、学祭でたくさんの水槽を置いて生体展示、というイベントは個人的にも似たような経験をしたことがありました。
なんか、若い頃を思いだしますね~。
全ての展示が注目に値しましたが、とりわけ個人的に着目した展示は、次の5つです。
注目の展示
オガサワラヨシノボリ
もはや採集してきただけですごい。
最低5泊6日+旅費10万円~+レンタカーetc…と乗り越えるべき壁の多きヨシノボリ。
小卵型ヨシノボリの繁殖技術を身に付けたら、ぜひ採集してみたいヨシノボリと考えています。
キバラヨシノボリ
この展示スタイルむちゃくちゃ好き。
2020年まで沖縄産の個体は採集可能だったのですが、クロヨシノボリと外見がさほど変わらないこと、滝より上流に行かないと出会えないというなかなか苦労する性質のため、当時はあまり興味が持てず・・・。
今となっては規制されてしまい、採集することは叶わなくなってしまいました。
こうやって見れたのは大変良い機会でした!
トウヨシノボリ(秋田県 溜め池産)
個人的に注目している、「トウヨシノボリの東北地方内陸部の個体群」。
会津地方で見られる個体にそっくりな印象を受けました。
クロダハゼとはどことなく雰囲気が違うような気がしています。
東北地方内陸部のものに関しては、いずれもう少し掘り下げてみたいですね。
ビワヨシノボリ×シマヒレヨシノボリ×オウミヨシノボリ(トリプルミックス)
シマヒレヨシノボリとビワ、オウミが交雑すること自体は知っていましたが、それが移入先ではなく滋賀県の在来分布エリアで行われていることと、トリプルミックスが存在することは初知りでした。
来年のビワヨシシーズン、こちらも追ってみたいと思います。
3泊コースかな~
カワヨシノボリ斑紋型?(宮崎県産)
今回の展示で唯一。
全く存じ上げないヨシノボリですね・・・。
宮崎県のカワってこんな感じなんですね。
表現型としては見るからに斑紋型、ではあるものの。
ちょっと現地で探してみたくなりました。
なお来年、大分に行く予定があるので、もしかすると近しい個体が採れるかも?
企画展どころか、水族館全体を見渡しても、質・量ともにおそらく過去No.1の展示であることは間違いないでしょう。
はるばるやってきてよかったぜ!
ただ最終日で土曜日ということもあり、めちゃくちゃ混んでいてじっくり写真を撮れなかったことだけが残念・・・平日に来るべきでした!
(そうすれば写真のクオリティもマシだったかもしれない・・・)
記念図録
なんと今回展示されたヨシノボリが、本で一覧で見ることができます。
願わくば現地で購入したかったのですが、残念ながら売り切れだったのであとでネットで発注。
京大淡水研Webサイト
この素晴らしい企画展を実行した京大淡水研のサイトはこちら。
ヨシノボリ図鑑もあるみたいです。
おそらく展示個体も含めた、鮮やかな写真はこちら。
というわけで大変素晴らしい展示だと思いました!
来年も期待しています!
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